過剰性能
過剰性能(かじょうせいのう)、オーバースペック(和製英語)とは、機械や装置の利用者が求めるよりも、更に高い性能を持っている状態、またはその性能を持つ機械装置を指す。
過剰という言葉が指し示すとおり利用者にとっては不要なものであり、時として邪魔となる場合もある。その一方で、機械の一部分だけが他の部分の強度を越えた性能を持っている場合もこのように呼ばれるが、前者が産業上の過剰性能と呼ぶのに対して、後者は工学上の過剰性能と呼ぶ。
ちなみにオーバースペックという言葉は下記のような極めて象徴的な事例にとどまらず一般的に使用される。その場合は多く産業上の過剰性能を指す。
[編集] 概要
通常、工業製品の多くでは、消費者の多くが求めるであろうと推察される性能が設計段階によって設定される。これは過剰に性能を追求しても、製造コストが高くなるだけで、製品の市場での評価につながらないためである。
例としては、一般公道を走るために用いられる家庭向けの自動車に、レース場で首位を狙える性能のエンジンを搭載する行為が挙げられるだろう。このような製品は市場に出回ることは、常識の範疇から言えば在り得ない訳だが、仮にそのような製品が登場した場合、高速稼動に耐えられるエンジンのために車両の販売価格は高騰、また一般道走行時に法定速度を遥かに超える速度が出た所で、道路交通法によって速度違反で検挙されたり、さらには交通事故を起こして運転者に多大な不利益が発生しかねない。
- 実際に発売された車両としては、1969年に登場した「日産・スカイライン2000GT-R」が、レース用エンジン"GR-8型"をベースに開発した「S20型」と呼ばれるエンジンを搭載した。なお同車は走るために必要な装備以外のアクセサリー類(ラジオなど)は一切搭載されておらず、実に車両価格の約半分はエンジンの値段であった。
また工学上においても、そのような設計は推奨されない。何故なら機械装置の一部分だけをコストをかけて過剰に強化したところで、他の部分が耐えられなければ、実用的では無いためである。
過剰な出力を持つエンジンを搭載した自動車の場合、ブレーキ部分がその加速能力に比例して強化されなければ、これはブレーキに対してエンジンが工学上の過剰性能となる。自動車を走らせた際に、「走って止まる」という自動車の基本原則を逸脱するためである。更に言えば、タイヤが高速回転に耐えられずパンクしたり、ギアがエンジントルクに耐えられず破損したり、車体(シャーシ)が出力に耐え切れず歪んでしまう。こうなると、自動車とは到底呼べず、「高価で強力なエンジンに付随したガラクタ」となり、エンジンを含めて「実用には適さないゴミ」と成り果てる。
- こういった、出力を制御しきれない工学的な欠陥を無理な力技で解決しようとした一つの例としては、パンジャンドラム(実用化に失敗)が挙げられる。
しかし、産業上の過剰性能については、それが無駄になるとは限らない。本来の目的からすれば過剰性能である工業製品であっても、設計意図を超えた使い方をされれば、その能力を発揮できる可能性があるからである。例えば、MP5短機関銃は、当時の短機関銃の常識を超えた命中精度から、特殊部隊用短機関銃として認知されることとなった。このように、産業上の過剰性能を持った製品は、時として新たなカテゴリの製品の礎となることがある。
[編集] 過剰性能とされた歴史上の例
[編集] 自動車
- スーパーカー
- これらの自動車は、1970年代から1980年代に掛けて市販の乗用車として盛んに発売された。中には過剰な性能を得るために、総合的なバランスをあえて無視した設計の物もあった。しかしこれらは、市販車であるにも関わらず乗り手を選び、その能力に欠けるオーナーの運転を拒否するかのように事故を起こしたり、または故障したりした。今日でも同カテゴリに属する自動車を愛好し、他の市販車のゆうに10倍前後という価格を支払ってでも購入する熱心な愛好者も存在するが、非常に限られた市場を対象に細々と生産されているに過ぎない。
[編集] 鉄道車両
- EF200形電気機関車・EF500形電気機関車
- この両機関車は、バブル景気による貨物輸送量増大を見込み、前者は東海道本線に於いて当時国内最強とされたEF66形の後継車種として、後者は東北本線でのED75形の重連運用置き換えを目指して1990年に開発された。最高出力はヨーロッパの主力機関車とほぼ同格の6000kWを誇り、1600トンの貨物列車を牽引して最高時速120km/hでの運転を実現させるためのものであった。しかし、フルパワーでの運転を行うと、既存の変電設備では消費電力の大きさ故に電圧低下または場合によっては負荷の急変動による安全装置の作動すらも招き、更にEF500形においてはモーターを制御するインバータが発生させる高調波が周辺の電気機器にも影響を与えるという問題(誘導障害)も発生。バブルの崩壊後は地上設備の強化も見送られ、結局前者は試作車を含む21両が生産されただけで生産を終了。2006年現在では最高出力をEF66形同等に抑えた状態で運用に就いている(但し、2007年度の完成を目処に、山陽本線瀬野 - 八本松間(瀬野八)で地上設備の強化工事が行われており、その際には同区間におけるフルパワーでの運用が実現するものと予想されている)。後者に至っては試作車が1両製造されただけで開発を終了することとなった。その後、より現実的な性能を持った後継車種(EF210形・EH200形・EH500形・EF510形)が開発・量産され、現在に至っている。
- 国鉄101系電車
- 中央線向けに10両オール電動車編成で登場するも、編成数を増やしていくと変電所の容量不足に陥ってしまった。そのため付随車の挿入を余儀なくされ(最終的には6M4Tまで後退)、当初計画より加速度が大幅に落ちてしまった(通勤電車では加減速度を大きくとれば、単位時間あたりの列車本数を増やすことができ、輸送力増強が効率的に実施できる)。山手線では4M3Tで登場したが性能の割に不経済的なことからモーター出力を上げギア比を変えた国鉄103系電車が同線向けに開発され、標準型通勤車として大量に量産された。
- 国鉄201系電車
- 1970年代、2度のオイルショックで省エネへの関心が高まり、ハイパワーと省エネを両立させるため、当時の国鉄技術の粋を集めて開発された通勤型車両であった。先進的なサイリスタチョッパ制御を導入、また大量発注をかけることで、高価なサイリスタ素子価格を下げることも期待され、101系以来の通勤型車両の面目を一新した。結果的に素子価格は下がらず、頑丈な耐候性鋼板を用いた車体も相まって高価な車両となり、減価償却がなかなか進まず、結果として25年以上の長期にわたって中央快速線で運用されることになった。
- 国鉄キハ391系気動車
- 非電化区間のスピードアップを目指したガスタービン試験車。高出力のガスタービンエンジンは扱い難くデリケート過ぎ、部品の破損を起こしたりトンネル内再始動時には排気ガスを再吸引してエンストするものであったほか、試験中にオイルショックに見舞われ、燃費の悪さから、また導入予定の非電化区間が電化されたことにもちなみ、量産化されずに終わる。
[編集] 航空機
- コンコルド
- この航空機は、1969年2月に試験飛行に成功し、益々加速する国際航空輸送の花形として登場、音速を超える(マッハ2.2)旅客機(超音速輸送機)として注目を集めた。しかし旅客機という目的にも関わらず乗客は100名、またその巨体を高速で飛ばすために搭載されたアフターバーナー付きターボジェットエンジンの燃費は極めて悪く、オイルショック以降には更に航空運賃の高騰に拍車が掛かった。この他にも離着陸時や超音速飛行時の騒音が酷かったり、機体に負担がかかり事故が起き易く、維持コストが高く付くといった問題も抱えた。通信網が完備され、ビジネスにおける迅速な人的移動の必然性は年々低下する一方、速度よりも広く快適な機内と、安全で確実な運行(悪条件下でも安定した飛行)を求める傾向が強まり、1976年11月2日に開発中止が決定された。試作原型機を含めて20機が製造されたが、2000年には墜落事故により114名が死亡、2003年には採算性の問題もあって、全ての同型機が運行を終了した。
[編集] 電子・情報機器
- パソコン
- 今日、家庭向けのパソコン製品は、大半の消費者にとっては過剰性能といえる。一般家庭におけるWeb閲覧や文章の作成といった利用において、既に最新のCPUやGPUは消費者の興味を引かなくなっており、パソコン本体の売上は、一頃の活気を失っている。一部のDTMや動画編集などのプロフェッショナル・プロシューマ用途、科学技術計算やウェブサーバなどの学術・業務用途、あるいはコンピュータゲームを行うユーザーにはまだ性能不足であるとする声があるが、一般の消費者の関心はデジタルカメラや液晶ディスプレイ、デジタルオーディオプレーヤーといった周辺機器に移っており、本体の買い替え需要を喚起できず、行き詰まり感が出てきている。なお、パソコンは、発売時にはオーバースペックに見えても、長期的に使われた場合には、ソフトウェアの肥大化に伴い4年から6年程度で陳腐化すると言われている。しかし経済的な問題もあり、一般家庭や中小企業ユーザーはソフトウェアやOSのバージョンアップに積極的とは言えない。
- 法人・個人ユーザーの中には、既に陳腐化した古いハードウェアや、サポートが終了した古いソフトウェア資産を頑固に使いつづけるユーザーもあり、現在のネットワーク環境に対応するためのセキュリティソフトの導入を嫌い安全ではないまま使い続け、ゾンビパソコンなどコンピュータウィルスやマルウェアの温床となる問題が見られる。この問題に関しては、2006年にサポートが終了したMicrosoft Windows 98世代の教育用パソコンが日本の学校では40万台に上るとNHKが2006年12月31日に報じている。経済産業省ではこういったハードウェア資産をLinuxを導入することで再活用する事業を2007年度からはじめるとしている(スラッシュドット記事)。
- パソコンメーカはコンシューマ市場からPCサーバ市場へ軸足を移しつつあり、複数のタスクの同時実行が可能でマルチメディアやサーバ用途に向くマルチコアがトレンドになっている。逆に、家電の世界ではパソコン向けに開発された技術を用い、ハードディスクドライブの搭載、メモリの大容量化、ネットワーク機能の搭載、リッチなユーザインターフェースの搭載が図られている。
- Lisa
- Macintosh以前にApple社が開発、販売した、一般向けとしては初めてGUIを採用したパーソナルコンピュータ。スペックも最高峰だったが、価格も最高峰だった。1983年当時、約1万ドルの値段がつけられた(当時1ドル=230~240円)。そのため個人の手が出るものではなく、ビジネスで必要とされるソフトウエア群を添付して業務向けにワークステーション的な売り出し方がなされたが、業務用途に先進的なインターフェースの必要性が理解されず商業的には失敗、個人向けにスペックを抑えリーズナブルな価格のパソコンとしてMacintoshが開発された。
- セガサターン
- 多数の高機能なプロセッサが搭載されたものの、2つ搭載されたCPUをプログラマが使いこなすのは難しく、ライバル機との価格競争でも仇となってしまった。
- 携帯電話
- 2008年現在、携帯電話の演算性能やRAM容量などは1990年代末のパソコンと同等のスペックを持っている。外部記憶も当時の平均的なハードディスク容量に匹敵するメモリーカードが使用可能である。デジタルカメラとしても画素数や保存性能だけなら2000年代初頭のカメラを上回っている。データ通信速度も、PDCの9600bps、GSMの14.4kbps、ISDNの64kbps(Bチャネル1本当たり)に対し、3Gでは384kbps~2.4Mbpsと桁違いに速くなり、大量のデータ通信がストレスなく行えるようになった。その為、料金を意識しないまま大量のパケットを遣り取りし、後に高額の請求が来て問題となる場合がある(通称パケ死)。意識しないまま通信を行っていることから、クローン携帯の存在が疑われることがある(実際には、GSMには存在するがPDCやW-CDMAには存在しない)。そのようなケースが増えてきたことから、カメラの高画素化、着うたや動画配信などコンテンツのリッチ化、通信速度の向上などが通信量の増大を誘発しているとして、電話機としては過剰性能であるといわれることがある。反面、通話品質は有線電話やPHSに及ばず、つながりやすさも高周波数帯を使うものは従来方式よりも劣り、バッテリの持続時間も短くなっている(W-CDMA方式では携帯電話の初期よりだいぶ改善されている)。
- 2G時代においてはQVGA液晶や40和音の音源チップ、高画素カメラなどを搭載したにも関わらず、通信可能なファイルの制限容量が小さく(6KBなど)これらのハードウェアの性能を活かしきれなかった機種も存在した。
[編集] 音響機器
- DAT(デジタルオーディオテープ)
- CDを超える特性をもつ録音再生装置である。大いに期待されたが、SCMS策定に手間取るなど、デジタルコピー問題に苦しみ、音質は若干劣るもののランダムアクセスが可能で扱いやすく、最初からSCMSを搭載しCDからのコピーが容易にできたMDが登場したことで民生用の録音再生装置としては命運を絶たれた。実際の所、DATの音質を生かすには、高性能マイクロホンやミキサ等業務用の音響機器が必要であり、業務用及びマニアの生録音用には手軽に高音質が実現できる録音機として盛んに利用された。またDDSやデータレコーダとしても応用された。現在ではPCMレコーダーの出現、HDRIやDAWが盛んになり、大手のアルプス電子がメカの製造を終了したので、今後は徐々に現役を引退していくと思われる。
[編集] 武器・兵器
- MP5
- デビュー当初は過剰性能とされたが、後に評価が改められたという珍しい例。この短機関銃は、突撃銃のメカニズムが導入されており、そのため高い命中精度を持つが、それが災いして価格は高騰、短機関銃としては複雑なメカニズムと相まって「拳銃弾を撃つのには大げさすぎる」というマイナスの評価を得てしまった。しかし、1977年のルフト・ハンザ航空機ハイジャック事件において、GSG-9がこの短機関銃を用いて、乗客被害を全く出さずに鎮圧に成功したことで、MP5の評価は「過剰な命中精度を持つ無駄に高い短機関銃」から「精度を要求される、特殊部隊用短機関銃」へと変化した。特殊部隊用の高精度モデルという、短機関銃の新たなカテゴリの始祖となったMP5は、今日さまざまな特殊部隊で活躍している。
- 64式7.62mm小銃
- 銃身内にクロムメッキを施すことで銃身寿命を数万発と向上させることに成功しているが、機関部分の寿命が銃身に比べて短い。同装備の開発に携わった津野瀬光男氏の著書「幻の自動小銃」「幻の機関銃」によれば、銃身部分だけでいえば同時期採用された62式7.62mm機関銃に比べても耐久性は高く軽機関銃としての置き換えも可能であると主張している。BARのような使い方も想定していたことが原因のようである。
- 斬馬刀
- 刀身部分が3尺~5尺(90㎝~150㎝)と非常に長く大きな日本刀。現代では騎馬武者を馬ごと切り倒すためというイメージをもたれることが多いが、実際は騎上からの攻撃を避けつつ馬の脚を攻撃し、馬をつぶすことが目的だった。鎌倉時代、武家が政権を握ると剛腕・剛気が名誉とされ、それを誇示するために長大な武器を持つことが多くなった。斬馬刀は実戦目的でつくられたがその長大さゆえに非常に重く、実戦で使うというよりは自分の武力を誇示するために用いられることがほとんどであった。また斬馬刀を扱いこなしたものはおらず、持ち歩く時も小姓や側用人に持たせるなどしていたという。斬馬刀はその後使い勝手の悪さが改善された長巻へと進化していくことになり、斬馬刀そのものは姿を消してくことになる。。
[編集] 関連項目
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